時が経つのは早いもので、Vampire WeekendがUSインディシーン期待の若手として2008年にデビューしてからもう16年になる。Pitchforkの(ある種の権威化も伴う)影響力拡大と共に2000年代中期から隆盛したUSインディシーン。活動休止状態のGrizzly BearやTV On The Radio、全盛期ほどの批評的評価を得られていないAnimal CollectiveやDeerhunterなど、2020年代に入ってかつての隆盛は失われたように見受けられる。しかしそんな中、Vampire WeekendはThe NationalやFleet Foxesといったバンドと同じく、シーンの生き残りとも言える存在だと言えよう。

今回紹介するのは、Vampire Weekendが2024年に発表した作品『Only God Was Above Us』。1stから破格のクオリティの名盤を連発して来た彼らだが、今作は大傑作の3rd『Modern Vampires Of The City』に比肩する完成度となっている。中心人物のエズラ・クーニグが語る通り、今作は彼らのディスコグラフィ史上最も硬質なサウンド・プロダクションだ。ミキシングを担当したのは名手デイヴ・フリッドマンで、彼による艶やかで広がりのある音響処理が実に冴えわたっている。

歪んだノイジーな音使いによる適度な汚しが随所に加わっているのは、今作における分かりやすい新要素だ。これによって生まれているのは、清濁が渾然一体となった混沌とした美しさ。もちろん、それは彼らのとにかく軽やかで親しみやすい卓越したメロディ・センスあってのこと。新たな要素によって彼らの従来の魅力がさらに浮き彫りになるという、バンドの進化の方法論としてはこの上ない成功例だろう。

また、デビュー当初よりVampire Weekendは、演奏や音作りにおいてドラムの存在感が大きいバンドだ。彼らは高度な演奏技術を売りにするタイプのバンドではないが、かつてFoo Fightersのデイヴ・グロールが賞賛したクリス・トムソンによる個性的なドラミング(※1)はアンサンブル全体に不思議な異物感を付与している。前作『Father Of The Bride』では不参加だった彼は本作において約半数の楽曲に参加しており、そのパワフルな音色を聴かせてくれる。

Vampire Weekendは広義の「ロック」に分類される音楽性のバンドの中ではかなり毒気の少ない部類で、良くも悪くも“知的”なインディ・ロック然とした佇まい含めて好みが分かれる部分はあったと思う。しかし、今作は新鮮なサウンド・プロダクションといった分かりやすく刺激的な要素が前面に押し出ていることもあり、今まで彼らの音楽に物足りなさを感じていた人も聴いてみる価値があるだろう。今年を代表する名盤なのは間違いない。

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