君島大空らを擁するインディーズレーベルAPOLLO SOUNDS所属の若手バンドによる2作目。X 上で偶然見かけたバンドなのだが、その非常にユニークかつ高度な音楽性にはとても感銘を受けた。

メンバー全員が大学で音楽を学んでいたというアカデミックな経歴を持つKhamai Leonは、クラシック、現代音楽、ジャズ、ロック、ヒップホップなどのジャンルを巧みに融合したアヴァンギャルドな音楽性だ。自身の音楽性を彼らは 「エクスペリメンタル・クラシック」と標榜しており、楽曲にはクラシカルなフレーズを奏でる鍵盤楽器やフルートが多用されている。とはいえ、それと同時にギター、ベース、ドラムも一般的なロックと同様に用いられていたり、ヴォーカルパートに占めるラップの比重が大きかったりと、クラシック以外の音楽の要素も十二分に強い。なので、「エクスペリメンタル・クラシック」という形容を(少なくとも聴き手は)意識し過ぎることもないのでは無いかと思う。

今作を聴いて自分が連想したのは、UKのアヴァン・プログバンドblack midi。構成している音楽の要素や醸し出す雰囲気は異なるものの、縦横無尽に展開する楽曲の情報量、 そしてそれを可能にする演奏技術の圧倒的な高さは通ずるものがあるだろう(実際、彼らは過去に「John L」のフルートが印象的なカバーをライブで披露しておりYouTubeで視聴可能)。

その一方で、彼らをblack midiや他のアヴァン・プログ系のバンドと比較してダークで暴力的な印象は無く、むしろ溢れ出る創造性を理知的にコントロールしているような独特の気品が感じられる。雰囲気が近しい日本のアーティストを強いて挙げるなら、King GnuやKID FRESINO辺りが妥当だろうか。他にも、アルメニアのジャズ・ピアニストTigran Hamasyan辺りと共通する部分もあるように思う。

リーダーの尾崎勇太(フルート/MC)は東京藝術大学でフルートを専攻した経歴があり、フルート、ラップ共にその貢献は素晴らしい。軽やかな フルートならびに、力押し一辺倒ではない絶妙な力加減のラップは、楽器隊の俊敏なアンサンブルに適度な柔らかさを加えている。また、歪んだ音色のコントロールが上手すぎるギターをはじめ他メンバーの演奏も素晴らしく、誤解を恐れずに言えば、“フルート奏者が居る”という事実がそこまでのアピールポイントにならないくらい、他メンバーの演奏も印象的だ。

変拍子を織り交ぜながらカオティックに展開する「森」、ノイズ/インダストリアルロック寄りのヘヴィなギターリフが印象的な「Skew」、このバンドならではの劇的な展開で魅せるメランコリックなヒップホップ曲「潮鳴」など、個性的な楽曲が並ぶ。中でも、表題曲「イーハトーブ」はまさにキラーチューンと呼ぶにふさわしい一曲で、機動力抜群のピアノロックから開放感のあるサビへの展開が素晴らしい。

曲がりくねりながらも壮大なクライマックスへ向けて収束していくようなアルバムの流れも秀逸で、とても2作目とは思えない充実度。“プログレッシブ”や“アヴァンギャルド”と形容される音楽が好きな人にはぜひ聴いて欲しいし、そうでない人であっても耳を惹かれる確かなキャッチーさ、ポップさがある。彼らの今後の活躍がとても期待出来る名盤だ。

Rating:91/100