フランスのポストブラックメタル/ブラックゲイズバンドによる7枚目のアルバムは、まごう事なき名盤だ。ブラックメタルをルーツに持ちつつもシューゲイザー、ドリームポップ、ポストロックを独自に配合したサウンドで幻想的な世界を描いてきたAlcest。温かみのある雰囲気やノスタルジーといった、一般的なメタルには無い要素を前面に出しているという点でも稀有な存在である。

ジャンルの草分けとなった1st『Souvenirs D'Un Autre Monde』の時点で既に高い評価を得ていたAlcestだが、個人的に彼らが一皮むけたターニングポイントは2016年発表の5作目『Kodama』だと認識している。従来よりもダークな作風となった同作は、楽曲の緩急の付け方、多彩なギターワークによる奥行き表現、リズムパターンのバリエーションなどが従来より格段に向上した傑作だった。なお、続く6作目『Spiritual Instinct』ダークさはそのままにリフ主体の楽曲構成によりメタルらしさが強調された一方、彼ら流の美旋律が控えめだったこともあってやや個性に欠けるアルバムだったように思う。

今作は1stと同じく、ここではない別世界への憧憬というコンセプトに立ち返って制作されたこともあり、近作のダークな雰囲気が刷新され、より多幸感やノスタルジーを重視したアプローチがとられている。そして、コーラスを含む歌を重視したことや、外部のミュージシャンがシンセサイザー等のアレンジに携わったことによって、従来よりさらに光溢れる世界が浮かび上がっているのが今作最大の魅力だ。

オープニングを飾る「Komorebi(木漏れ日)」まさにはタイトルさながら、光が差し込んで来る様子を克明にスケッチしたかのような名曲。各楽器の織りなす多層的なレイヤーがとても美しい。8分という尺の「L'Envol」はメロディもさることながら楽曲全体の構成に冗長さが無く、“プログレ”的な観点で見ても非常に優れた曲。総じて、アレンジの秀逸さがAlcestの抒情的な美旋律を過去最高に引き立てている、というのは今作を聴いて強く感じたところだ。

また、作編曲以外にもドラムが素晴らしい。アルバムのリリース毎にヴィンターハルターのドラムの表現力は向上しており、彼による重心が低めかつ“間”を大事にしたドラミングは、90年代シューゲイザーあるいはDeafheavenといったハードコア寄りブラックゲイズとの差別化に貢献しているように思える。「Flamme Jumelle」はドラムの手数の多さによる躍動感が浮遊感のある旋律を引き立たせているし、「Améthyste」終盤におけるリズムパターンの変化のつけ方などもユニーク。7分を越えるような曲をダレずに聴かせられるのはネージュの作曲能力だけでなく、ヴィンターハルターの力によるところも大きいだろう。

初期作品のノスタルジックで幻想的な美しさを蘇らせ、それを多彩なアレンジで際立たせた今作を、自分はAlcestの最高傑作だと断言したい。自分は発売以来20回以上繰り返し聴いていて、聴けば聴くほどさらにその深みに気付かされている。なお、オーガニックなサウンドプロダクションが(この手のジャンルにしては)耳に優しいし、ブラックメタル的な絶叫ヴォーカルの頻度もごくわずか。そうした点も含めて非常に聴きやすいので、もっとこの大傑作が広く知られて欲しいと願うばかりだ。

Rating:95/100